元アウトドアガイドのブログ

日々思うことなどを中心に書いていきたいと思います

カービングターン考察:④ハンマーヘッド

カービングターン云々の話をする時に必ず出てくるのが『ハンマーヘッド』のスノーボード

今回はそんなハンマーヘッドスノーボードに関してその仕組みなどを解説をしてみたいと思います。

 

そもそもハンマーヘッドってどういうもの?

ハンマーヘッドスノーボードというと『なんだかカービング上手い人達が乗っている四角い高そうな板』という認識の人が比較的多いのではないかと思います。

特に日本において生産・販売されているものは

  • 全長の長さに対して有効エッジを長くできる
  • ノーズやテールロッカー(反り)を調整することで荷重時に接雪長を短くして取り回しがしやすくなる(バリオキャンバー

といった特徴にフォーカスしたものが比較的大く、その多くは「カービングのしやすさ」に特化しているように思います。

確かにハンマーヘッドスノーボードの特徴ではあるのですが、個人的には「ハンマーヘッドの神髄はそこではない!」と感じています。

余談ですが、全長の長さに対して有効エッジを長くとるというのは実は15年以上前にK2から発売されていたジブ板(W.W.W)に採用されていたコンセプトでもあります。(当時はジブブームで、より短い板で、取り回しのしやすさとフリーラン時の安定性を両立するために採用されていたわけですが、ある意味でこれは先進的な取り組みだったのではないかと20年近く経った今は思います)

ハンマーヘッドの生まれた経緯

さて、話が少し逸れましたが、ハンマーヘッドスノーボードが開発された経緯はスピード種目の競技(アルペンスノーボードクロス)と実は切っても切れない縁があります。

どういうことかというと、要は

  •  有効エッジ長い方が高速域で安定するよね?でも板自体が長すぎると邪魔だなぁ…あ!そもそもアルペンやクロスやるような硬いところでノーズって要らなくない?四角い方がトーション(ねじれ剛性)が硬くできるし⇒四角いシェイプ
  • キャンバーライン(ボードを平面の乗せた時に横から見た「反り」)を利用して加速を生むことはできないか?⇒ノーズロッカー&バリアブルキャンバー(※次項で説明します)

ということで生まれたのがあのシェイプなのです。

なので「有効エッジが長い」「手動でノーズを捉えなくてもカービングができる」というのもハンマーヘッドの特徴ではあるのですが、そこを求めて作ったというよりは副産物的なもの、開発していく中で追加されたものが今日本でもてはやされている部分ではないか?と個人的には感じています。

ハンマーヘッドキャンバーライン

さて、ハンマーヘッドの板のルーツが分かったところで、そのキモである「キャンバーライン」について解説していきます。

ここまで読み進め頂いた方は概ねキャンバーは説明不要かと思いますが、キャンバーラインとはざっくり言うと「キャンバー全体の形とバランス」という風に理解してもらえればと思います。

前項で説明した加速を生む理論に関してなのですが、キャンバーとは元々「人の体重が板に乗ることで、ノーズやテールを接雪させて板全体を使えるようにする」ために生まれたものです。

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キャンバーのイメージ

対してハンマーヘッドのボードでは基本的にノーズにバリアブルキャンバーと呼ばれる接雪点が移動するキャンバーが設定されています。

参考までに画像を貼ってみます。

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テールの接雪点、割とはっきりとしている

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ノーズの接雪点、テールよりも幅があり
前後のキャンバーもゆるく設定されている

ちょっとキャンバーが減ってしまっている板なので分かりにくいかもしれませんが…

よく見てもらうとテールの前後の反りとノーズの画像右側の反りを比べてもらうと分かりやすいかと思います。

これがどう作用するかというと…

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ハンマーヘッドのイメージ
  1. テールは従来同様のキャンバーがあり、圧が高まる
  2. ノーズのキャンバーは「逃げる」ように設計されている
  3. キャンバーのピークがやや後ろ(テール寄り)に設定されている
  4. 1~3の組み合わせにより、圧が加わると板が前に進む

ということになります。

図は大分大げさに書きましたが、ざっくりいうとこういう構造で、ラウンドノーズ、スクエアノーズかからわず、このようなキャンバーラインの板を俗にハンマーヘッドと呼んでいたわけです。

圧がかかれば前に進むようなこのシェイプは、スピード競技において従来のキャンバーラインの板に対して圧倒的に速く、ワールドカップなどではもちろん、国内のアマチュアレースにおいても公式戦などではハンマーヘッドの板を使わないというのはかなりの不利を強いられるような状況になってきています。

しかし、日本では冒頭に書いた通り、そのシェイプが生み出す副産物的な部分が注目され、四角い見た目の板=ハンマーヘッドという認識が定着してしまっているのが現状で、本来ならばハンマーヘッド≠スクエアノーズなのですが、現状日本ではラウンドノーズ≠ハンマーヘッドというイメージになってしまっています。

まとめ:昨今のハンマーブームに思うこと

と、ここまで呼んで頂けた方はハンマーヘッドとは本来どんなものを指したのかは理解していただけたのではないでしょうか?

ただ、誤解していただきたくないのは僕は決して「認識が間違っている!」とか「国産のハンマーはハンマーじゃない!」なんて言うつもりは毛頭なくて、むしろ国産のものはそれとして、日本のテクニカルシーンや需要に合わせて設計されているのでそれはそれとして認識をしています。

ただ、本来の意味でのハンマーヘッドは国産のものの中には非常に少なく(ないわけではないです)、個人的に乗った範囲では海外のものにまだ遅れをとっているような印象を受けます。もちろん、そこは各メーカーとも非常に努力をしていて、ライダーさんとともに日夜進歩を続けていることとは思いますが、スポーツショップの店員や一般のスノーボーダーが「ハンマーヘッドいいですよ!」なんて言ってるのを聞くとなんだか違和感を覚えるので今回記事を書いてみた次第です。

 

あ、ちなみにハンマーヘッドは基本的に「整地」を「より早く滑るため」のシェイプなので、オールラウンドに滑りたい方やパウダー大好きな方はそういった用途で設計されている板を個人的にはおススメしますよ!

 

それでは!

Ogi